【Der scheidende Sommer】


たとえ取り乱そうとも、一時的な錯乱にすぎず。
やがて、気のふれそうな孤独にあっても、自分はどうにも正気なことに気付いた。
狂うことすらできずに、また淡々と砂を噛むような毎日をやり過ごしてゆくのだ。




お前が守りたかったものってなんだろう、と考える夜がある。
違う結末を迎える方法があったんじゃないかって、考える夜がある。
考えても考えても、答えは出ない。
俺は永遠に答えの出ない問いの奈落へ突き落とされた。問いは執拗に繰り返され、未だに俺を責め続ける。




時々、お前の気配が途切れた瞬間を思い出す。
周りの音が全て消えて、氷点下まで気温が一気に下がった気がした。
空白の一瞬。

『銀・・次?』

何が起きたのかわからなくて、戸惑いがちに、思わず俺の口から漏れた名前。
応える声は、なかった。




最初のうちは、あの時の記憶が蘇るたびに、隣を手探って。
どんなに探しても、あるはずの温もりが見つからなくて夜中に声を上げそうになった。
咽喉の奥から迸ってくる悲鳴を殺そうとして、腕を噛んだ。皮膚が破れ、口内に鉄錆くささが広がって涙が出た。
泣けば泣くほど、ますますあり地獄のような孤独に嵌って、身体が底冷えしてゆく。
俺は闇の底の底を見るように両目を開け、嗚咽を噛み殺す。




だが、月日が流れてゆくにつれて、反芻される記憶は、そのうち俺に安堵のようなものをもたらすようになった。
それはまるで、溺れる人間が力尽きた時のよう。
これ以上足掻く必要はないのだと。
どんなに足掻いてもどうしようもない。
足掻いても、必死に手を伸ばしても、奪り還せないことがあるのだという、悟りにも似た諦めが、ゆっくりと俺を満たしてゆく。
陽光に煌く水面が次第に遠くなる。
一筋の光も届かない無音の深海へと引き込まれて、俺の気持ちは奇妙に凪いでいった。






俺のまわりで緩やかに世界が閉じてゆく。





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