【REBIRTHDAY】 # 4
| 何もかも諦めて、ただ自分の生に復讐するために生きている。 蛮が雷帝とかちあったのは、偶然だった。 偶々、奪い屋の仕事中の蛮が無限城に入り込んでしまったこと。偶々、蛮を不審者とみなしたジャンクキッズたちが攻撃を仕掛け、蛮がそれに応戦したこと。偶々、近くに来ていた雷帝がそれに気付いたこと。 初めてまみえた無限城の帝王は、予想外にも普通の少年の姿をしていたが、噂に違わぬ圧倒的なエネルギーを以って、蛮に立ちはだかった。 頭上で轟く雷鳴。 暗く垂れ込めた雷雲の下、雷帝の全身はほの明るく発光し、金の髪が陽炎のように揺れていたことを、今でも鮮やかに思い出すことができる。 光を孕んで揺らめく金髪が、まるで王冠を戴いているようだった。 その端正とも言える顔を、全く感ずる所の無いように無表情のまま、機械的に、だが正確に雷を繰り出す。 こちらの突き出した拳をギリギリでかわし、鞭の様に電撃を放つ。まるで獣のようだ。 蛮は久しぶりに気分が高揚した。どうしようもなく、血が沸き立つ。 皮膚が焼け、赤黒い血が飛び散る。 皮膚の焦げる悪臭に興奮した。痛みさえも心地よい。 相手の肉を抉る手応えは、最早快楽だった。 蛮の奥深くに息づく、暗い衝動が頭をもたげる。 仕事などどうでもよかった。 目の前の金色の魔王をこの手で倒すことができるのならば。 蛮は仰向けにベットに寝転り、ぼんやりと煙草をふかしていた。 結局昨夜は一睡もできなかった。明け方近くにまどろんだ時もあったが、背中越しの彼の息づかいが気になって眠りに落ちることは無かった。 見上げたアパートの天井には、所々に雨漏りの跡がある。古びた天井板は雨の沁みたその部分だけ色が濃く残っていた。 埃の溜まった天井板の継ぎ目を数えながら、蛮の思考は無意識のうちに、つい今朝までこの部屋の隅に蹲っていた男へと飛んだ。 無限城を出てきた、と男はいった。 あの城の主である彼が「出てきた」というのは、つまるところ二度と帰らない、帰れない、ということだ。 自分と違って、沢山の仲間を抱えているようにみえた。 玉座を、多くの崇拝者を、一身に集めていた畏怖と敬愛を…。 全てを捨ててきたのだろうか。 ふと、握り飯の食べ方がわからず途方に暮れていた様子を思い出す。 無限城で対決した金色の獣のような姿と、昨夜の小さな子どものような彼とが、うまく結びつかない。 ――――――結びつかない? ……いや、俺は知っていた。 知ってしまった。 あの闘いの時に。 不意を突いて懐に飛び込み、強引にその顔を覗き込んで、この呪われた目を彼の一対と合わせた時に。 さみしい魂に触れたのは、どちらが先だったのか。 胸の奥底、閉ざした重い扉を叩く音。 それは低くうねりをあげる津波となって、蛮の身体を侵食してくる。 「あ”あ゛ぁあ〜、クソー!」 頭を掻き毟りたくなる焦燥と苛立ちに、蛮は低く唸った。 胸を焦がすこの焦燥は、慄きにも似ている。 雷帝の何かが蛮を追い詰めるのだ。 蛮は上体を起こして、煙草を乱暴に捻り消した。 「…………」 どうしようもなくむしゃくしゃする。 腹立ち紛れに枕を壁に投げつけてみたが、鈍い音を立ててわずかに跳ね返っただけだった。当然気は晴れない。 蛮は上着を引っ掴むと、足音荒く玄関に向かった。 靴を履く視界に見慣れないものが映る。視線を滑らせば、粗末なビニール傘がドアの蝶番に引っ掛けるようにして立てかけてあった。 あの男が持っていたものだ。 何もかもを置き去りにした彼の、唯一の持ち物。 部屋に残る雷帝の気配を振り切るように…… 蛮は逃げるように部屋を飛び出した。 |
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