【REBIRTHDAY】 # 3
| 毎日が収奪と殺戮の繰り返しだとしても、無邪気に明日が来ることを信じて君と遊んだ懐かしい日々。 オレを庇って死んだ君の身体をこの腕に抱いたあの日に、全てが変わってしまったけれど。 君の死と引き換えに手に入れたこの力は、自力で明日を手繰り寄せることを可能にした。 自分以外の命を繋ぎとめることを可能にした。 たとえ、隣に君がいなくても。 たとえ、明日が今日よりも過酷で、生き抜くに値することすら疑わせるものであっても。 生きるか、死ぬか。究極の選択しか存在しない世界。 死にたくなければ殺すしかない。 失いたくなければ殺すしかない。 たった一欠けらのパンが生死を分かつ。 刹那しかあり得ない世界で、誰かを想うことにどれだけの意味があるというのか。 終わりのない戦いに心は擦り切れてゆく。 全てを忘れて、静かな眠りに身をゆだねて。 懐かしい夢を見たまま目覚めなければいいと、どれほど願ったことだろう。 死という眠りへの抗い難い誘惑。 それでもオレは諦められなかったんだ。 生きることを。 誰かを、愛することを。 翌朝。 文字通り蛮は雷帝――銀次を叩き出した。 「昨日ココの場所を聞いたっつー店に行って、働き口を紹介してもらいな。出世払いで返すつってな。それじゃなくても、新宿ならお前ぇみたいなヤツでも働けるところがいくらでもあるからよ」 蛮はそう捲くし立ると、銀次の鼻先に叩きつける勢いで玄関を閉めた。 途方に暮れて銀次はただ立ち尽くす。 ついと手を伸ばし、閉じられたドアに触れてみた。 冷たい……。 外気に冷えた無機質な金属に指先が凍える。 それが蛮の拒絶の温度のようで、銀次を打ちのめす。 階段を上ってきた派手な身なりの女が、俯く銀次を胡散臭そうに睨みながら通り過ぎていった。 居心地悪さに耐えられず、女が奥の部屋に消える前に銀次は踵を返した。 死と戦いの繰り返しだと思っていた「日常」に突然飛び込んできた、彼。 やっと……。 やっと見つけた、と思ったのに……。 一晩中眺めていた男の背中をぼんやりと思い出しながら、銀次は街を歩く。 天気はいいが、吹き抜ける風は冷たい。 蛮の部屋は暖かかった。あの暖かさがなんだか酷く恋しい。 先日まで、「寒い」なんて感覚はずっと忘れていたのに……。 忘れたといえば、傘を忘れてきた。 確か、蛮の家の玄関に立てかけたままだ。 …………これは、口実ができたということだろうか? 彼を諦めきれない。 諦めるつもりなど毛頭ないが、取り付くしまの無い彼を訪ねる口実が図らずもできたのならば、嬉しいことだった。 そっとポケットに手を差し入れると、指先がマッチ箱が触れた。 これのお陰でHONKY TONKへ辿り着くことができたのだ。 銀次にとっては蛮へ通じる唯一の命綱だった。 指でゆっくりと箱の感触をなぞりながら、初めて蛮と出会った日の記憶を反芻する。 命を懸けて闘ったあの日、目を合わせた一瞬の邂逅が、銀次を突き動かして止まない。 拒絶された時の退路は既に存在しなかった。 自分の全てをさらけ出しても、彼の傍に居場所が欲しかった。 あの蒼い瞳が自分を見てくれのならば、何もかも捨てられるのに…。 考え込みながら歩いていた銀次は、ふと足を止めた。 周りを見回す。 休日のため午前中から新宿の街には人が溢れていたが、それは銀次のあずかり知らぬ所だ。ただ、その人の多さに銀次はめまいを覚える。 そして、今自分が歩いて来たはずの道を振り返ってみる。 暫く考えた後、首をかしげて、 「ここ、どこ?」 どうやら迷子になったようだ。 |
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