【ラヴラヴ愛してる☆ 真夏のヒートアイランド!】


この夏、東京では真夏日連続40日という記録が達成された。
これは観測史上最長です、なんて、涼しそうなスタジオで汗ひとつかいていない美人アナウンサーがにこやかに告げたのが、1週間前。
このオレですら食欲が出ないと思っていたら、なんと都心では日中の気温が40度を越えたらしい。
スバルの中の温度は、当然のごとく外気を軽く上回った。外が40度なら、かろうじて木陰に入っているとはいえ、大都会新宿の路上で熱波を浴びたスバルの車内は、一体何度だったんだろう…。
二人揃ってうっかり熱中症になりかけて、HONKY TONKにSOSを出したのが5日前。
(ちなみに。2週間前に、たまりに溜まったツケに加えて蛮ちゃんがドアを破壊したので、HONKY TONKへは出入り禁止になっていた。)
この酷暑の中で車上生活を続けるのは自殺行為に等しいと結論を出したのが、4日前。
そんなわけで、さすがにオレたちを哀れんだ波児の紹介で、急遽期限付きの家暮らしを始めた。それが二日前のことだ。
家といってもマンスリーマンションだけど、家具や生活に必要な雑貨は一通り揃っている。
ちゃんとテレビデオも設置されていて。テレビなんてHONKY TONKとアルタ前なんかにある街頭ビジョンくらいでしか見たことがなかったオレは、嬉しくてはしゃいでいたら、
「お前、その歳でマンガなんか見てんじゃねーよ!!」
と、ゲンコが飛んできた。
ドラえもんの何が悪いって言うんだろう。
あのお話は、なんか他人事じゃない気がするんだよね。特に、ジャイアンが「オレのものはオレのもの。お前のものもオレのもの」って言うシーンはさ、まるでオレに向かって言われたような感じがして。……オレ、どこかでジャイアンに会ったことあったっけ?
オレのことをバカにしてリモコンを奪ったくせに、蛮ちゃんがここぞとばかりにアダルトビデオを借りてきたのが、今日のこと。



『あ、・・・あああん〜っ!』
テレビからはひっきりなしに女の人の甘ったるくて艶かしい声が漏れてくる。
『ダメ!そこはダメなの〜〜』
蛮ちゃんは風呂から上がって早々にビデオをセットすると、上半身裸のまま胡坐をかいて画面を眺めだした。オレなんか気になってもじもじしちゃうのに、ビール片手にまるでフツーのバラエティ番組でも見ているような態度。
と思ったら、急に蛮ちゃんがテレビに向かってぐっと身を乗り出す。しかも、すごく真剣な表情。
何?何かあったの?
「……オイ、見ろよ」
「え?」
眉間にしわを寄せて、神妙な顔つきで。
「スゲー良いチチだな」
……今までの依頼に関わることとかさ、ありえないとは思うけど蛮ちゃんの秘密に関わることかな、な〜んてほんの一瞬でも考えたオレがバカだった。
相変わらずおっぱい星人な蛮ちゃんはチチがアップになるたびに目を皿のようにして画面に見入っている。こんな真剣な顔、最近仕事中でもめったに見たことないってくらい。
なんか、オレ、さっきからテレビじゃなくて蛮ちゃんばかりみてるよ…。まあ、テレビは恥ずかしくてまともに見れないんだけど。
それでも好奇心はやぱり疼くわけで。好奇心だけでなくて、その…やっぱ男としてのスケベゴコロというか、そんなようなヤツ?一応オレにもあるわけだし。チラッと、テレビを見てみれば……わぁああ!!
巨大なチチがっ!
チチが揉まれてる!!
ゴツゴツした男の手に揉みしだかれていたのは、恐らくヘヴンさんと良い勝負ができる大きさのチチだった。
……てゆーか、アレは一体何でできてるんだろう。
別にヘヴンさんに会うたびにそんなこと思ってなんかないけどっ。
でも、こうしてまともに、それもドアップで見ちゃうと、疑問がむくむくと沸いてくる。チチって言うくらいなんだからやっぱりお乳?牛乳?あ、それは牛の乳か。…ヒトチチ?わかんなくなってきた。
しかも、あんなにモミモミされちゃっても大丈夫なのがまた不思議で。
女性の体の神秘を改めて感じるのです。
どうにも刺激的で、やっぱりいたたまれなくなってテレビから目をそらせば、オレの視線の行き着く先は蛮ちゃん以外にはない。首にタオルを引っ掛けただけの格好で食い入るようにチチを見ている姿は、……どうしてオレ、この人が好きなのかなって、これも本当にほんの一瞬だけど、そんな気持ちを過ぎらせるくらいのしょっぱさがあった。
ツッ…と、蛮ちゃんのアホみたいに真剣な顔から下へ視線を滑らせる。そのまま何気なくだんだんと下を見ていって…。
!!
ソレを発見したオレは、慌ててテレビを見た。そしてテレビとソレの間を何往復かして、確認して。
「蛮ちゃん!!」
「あー?」
蛮ちゃんは目をテレビに向けたまま、気の抜けた返事を返したけど。
「ピンク!!」
「は?」
「蛮ちゃんの乳首、ピンクだよ!!」
「はぁ?」
オレの目は蛮ちゃんの乳首に釘付けだ。蛮ちゃんは変なものでも見るような目つきでオレを一瞥した後、自分の胸を見下ろした。
そこは、明らかにピンクで。少なくとも、テレビの中の巨大なチチの乳首よりもずっとピンクな感じで!
どうして?
オレは急いで着ていたTシャツの裾を捲ると、自分の胸を確かめた。
う〜ん?
両手でシャツを捲り上げたまま、今度は自分の胸と蛮ちゃんの胸を見比べた。
「やっぱりピンクだ……っ、痛って――――!!!!」
「ドアホ!!」
巨大なチチに見入っていた蛮ちゃんに負けないくらいの真剣な顔で呟いたら、容赦ない鉄拳が脳天を直撃して、あまりの衝撃にオレは思わず頭を抱えた。
「いって〜。そんな力いっぱい殴らなくてもイイじゃん」
「殴るわ!このバカが!!」
「だって、ピンクじゃないか…」
「ピンクじゃねーよ!これのどこがピンクだよ。テメーの目は節穴か!!」
なんだか物凄い剣幕で捲くりたてられて、オレは肩を竦め小さくなってしまう。
なんでそんなに怒るんだろう?ただ、そう思ったから言っただけなのに…。
蛮ちゃんは怒りをぶつけるようにベキバキって大きな音を立てながらビール缶を握りつぶすと、ペシャンコになったそれをゴミ箱に放った。だけど、缶はゴミ箱の縁に当たって外に落ちて。舌打ちをする蛮ちゃんの白い頬が忌々しげに歪む。
蛮ちゃんは色が白い。それは外国の人の血が混じっているせいらしい。本当に、透けるように白い肌だ。
普段そんなにジロジロと見ることなんてないから意識しないけれど、こうして明るい電気の下で改めて見てみれば、その際立った白さが眩しいくらいで。強い日差しに溶けてしまいそう。
こういうの「色素が薄い」って言うんだよね。ああ、だから、乳首も白っぽいのかな?
……あれ?
「髪の毛は黒いのに、なんでピンクなの?」
「知るか!!つーか、ピンクって言うな!!」
また拳骨が飛んできてオレは咄嗟に頭をかばった。
「それをいうならテメーもピンクだろうが」
「えー。オレはちょっと違う気がするけど…」
確かにオレは日に焼けない。それはきっとオレの特殊能力と関係があるんだと思う。
いつだったか、やっぱり今日みたいに暑い日にヘヴンさんが、
『日焼けって火傷と同じなのよ。怪我と同じってこと。だから私、絶対焼かないの。痕が残ったら大変だもの』
と、日焼け止めってやつを塗っていたら、
『ババアは新陳代謝がワリーから大変だな』
蛮ちゃんがそう言った途端、ヘヴンさんのグーパンチが蛮ちゃんの右頬にめり込んだ。
シンチンタイシャって何だろう…。でも、日焼けが怪我なら、オレが日に焼けないのもわかる。オレの身体が受けたダメージは普通の人よりずっと早く回復する。きっと日に焼けてもすぐに戻ってしまうはずで。
もう一度自分の胸を覗いて、考える。
「……なんか、ちょっと黒っぽい?」
がっくりと蛮ちゃんの首が垂れた。
「テメーと俺とじゃあ、変わんねーっつーの」
「えー。オレの方が黒いよ」
「俺様の方が黒いだろうが!」
「何でピンクなのイヤがるの?いいじゃん、綺麗なんだし!」
「き、ききき、綺麗って?!アホ、そういわれて喜ぶ男がいるかよ!!」
怒っているのか、それとも恥ずかしいからなのかわからないけれど、真っ赤な顔をした蛮ちゃんはオレの両頬を摘んでムギュ〜っと引っ張った。それはもう、尋常じゃなく、力いっぱい!……やっぱり怒ってる。
「いひゃい!いひゃいぉお〜〜!!」(痛い、痛いよ〜〜)
「このアホバカ銀次!」
頭上から降り注ぐ蛮ちゃんの罵声を浴びながら、オレは熱を持った頬を押さえて唇を尖らせた。何か喋るとまた抓られそうだったのでとりあえず黙ることにする。
「くだんねーこと言ってんじゃねーよ、ったく。あ〜あ、良いとこ見逃しちまったじゃねーか」
愚痴りながら蛮ちゃんはまたテレビに向き直った。少し丸まった背筋を見て、やっぱり白いなぁと思う。あんなビデオをチラッとでも見たせいだろうか、背骨の窪みの作る影が妙に艶かしく思えて、オレは視線をそらした。
「……それより。お前、ちっと痩せたんじゃねぇ?」
「え?そう?」
「ああ」
相変わらずテレビの方を向いたまま蛮ちゃんが言った。
「もっと食えよな」
「………………食費を使い込んだの、誰だっけ?」
白い背中が黙り込んだ。
「蛮ちゃん」
「…………」
「ばーんちゃん」
沈黙したままの後姿に四つん這いになって寄っていく。後ろに手をついて身体を支えているむき出しの腕に顎を乗せると、下から掬うように蛮ちゃんの顔を覗き込んだ。
「拗ねてんの?」
「拗ねてねーよ」
ピシっとデコピンが飛んでくる。
しっとりと汗ばんだ蛮ちゃんの肌はひんやりして、気持ちが良い。心地よさにうっとり目を閉じていると、「重い」とまたデコピンが飛んできて、仕方なく顎を退けようとしたら、
「っわぁ!」
まるで猫の仔を摘むように行き成り強い力で持ち上げられたオレは、気付くと蛮ちゃんの脚の間に挟まれて、向かい合わせに座らされていた。
「……暑い」
「我慢しろ」
「う゛〜」
ぐずるオレにお構いなく、蛮ちゃんはシャツの下に手を潜らせると、まるでオレの体型を確かめるみたいにさわさわと手探る。オレがくすぐったさに身を捩っても、蛮ちゃんは脚に力を入れて逃がしてくれない。
「やっぱり、小さくなった」
「小さくなってないよ!!その言い方ヤダ!」
「あんだよ、ガキのくせに。でもさ、軽くなったよ、お前…」
蛮ちゃんの腕力にかかればお相撲さんだって軽いと思う。
「だいたいオレが痩せたんなら、蛮ちゃんも痩せたんじゃない?」
「俺様は別にいーの。…な〜んかお前骨っぽいぜ?」
男なんだから骨っぽくて当然だと思うけど。
それでも、蛮ちゃんの声はどこか真剣味を帯びていて、きっと、いつになく夏バテしたオレを心配してくれてるんだってことはわかる。
「蛮ちゃんてさぁ……」
「あ?」
「何でできてんの?」
「は?」
またワケわからねーこと言い出したよコイツは、という胡乱気な目つき。
「おねーちゃんのチチはさ、きっとお乳でできてるんだろうけど。蛮ちゃんの白い肌はさ、何でできてんのかなーって思って。あ、理屈ではわかってるよ、色素が薄いってこと。でも、不思議じゃん?オレとこんなに違うし」
チラリと蛮ちゃんの胸に目をやったら、「見んな!」と叩かれた。目ざといんだから…。
「お前はそれを一々俺に説明しろって言うのか?」
うんざりした顔でため息をつかれて。
「……ううん。説明してもらってもわかんないと思う…」
我ながらバカなことを言った気がして、オレは少しうなだれた。
と、その時――――、

『アア――――!!イ、イク――――』

突然後ろから響いてきた一際大きな声に、オレはビクッと飛び上がった。
「プッ」
「だ、だだだ、だってビックリしたんだもん!」
「あははははー!お前、こんなんでビビんなや」
ちょうどオレの頭の後ろから聞こえてくる嬌声。それをかき消す蛮ちゃんの笑い声。
蛮ちゃんはオレの髪をわしゃわしゃと掻き回しながら爆笑する。
「テレビ見えないし、判んなかったんだもん!」
「うはははははー。バカ!バカでぇ〜〜」
ヒーヒー腹を抱えて笑い続ける蛮ちゃんを、唸り声を上げて威嚇する。笑いすぎだし!なんか涙目になってるし!
ちいさな子供をあやすようにオレの頭をポンポンと軽く撫でながら、さっきの話だけどさ、と蛮ちゃんは前置をきして、
「俺もお前も違うから、いいんじゃねぇ?同じだったらつまんねーだろ?」
「うん」
「例えばこのねーちゃんがさ、男のレスラーみたいにゴツかったらお前勃つ?」
マッチョで逆三角形な体つきに、おねーさんの顔が乗っているのを想像して、俺は力の限り首を横に振った。無理無理無理!絶対無理!
「だろ?女は男の腕に収まるようにできてんの」
なるほど…。
「俺たちはさ、それぞれに合うようにできてんだよ。外見が先か中身が先かなんて知らねぇけどさ。しっくりくるようにできてんだろーよ、きっと」
「つまり、蛮ちゃんは蛮ちゃんでできてるってこと?」
「まぁ、そんなもんか?」
「じゃあ、オレはオレでできてんの…?」
「納得いかないって?」
「えっと、違くて…」
もっとぴったりの言葉があるはずなんだ。蛮ちゃんの顎の辺りに視線を泳がせながら、オレはそれを探す。
「蛮ちゃんはさ、一見ロクデナシでできてるよね」
「なんだと?!」
「でもね、殆どは強さと優しさでできてるんだよ」
「……俺はバファリンかよ」
「ロクデナシがまわりを覆ってるからわかり辛いけどさ」
お前、それ褒めてんの?なんて蛮ちゃんが睨む。
だけど、目じりに優しさが滲んでいて。こういうのを見ると、ホントに「大好き!」って飛びつきたくなる。
「で、そういうお前は何でできてんだよ?」
「愛」
「はぁ?」
「愛だよ。オレは愛でできてるの!」
「へぇー」
胡散臭そうな顔。
「何?その気のない返事は!!蛮ちゃんへの愛でできてるのに!」
途端に、暑苦しい!!と蛮ちゃんが叫んだ。
失礼な!
でもさ、そう言いながらオレを腕から離さないのは誰?
「愛はともかくさぁ、お前は俺様の抱き枕として都合の良いようにできてんだよ」
だから。明日はファミレス連れてってやるから。ちゃんと食えよ。
ギスギスした枕なんて寝心地ワリーっつーの。


抱き枕って……この暑いのに?


「……素直じゃなんだから」
「何?!」
「オレのこと愛してるって言えばいいのに」
「うっせー。自惚れんな」
「オレの愛は24時間年中無休だから。いつでも受け付けてます」
「なんか、安っぽい愛だな、オイ」
コンビニかよ!と素早い突っ込み。
「オレは愛の戦士だからね。戦士に休みはないのです!」
浮いたあばらをそろりと指でなぞられて、オレの身体が震えた。耳元で蛮ちゃんが声を立てずに笑う気配。
「じゃあ、ちょっくら闘っておきますか?」
プツンと、テレビの電源が落ちると同時に横にされて、蛮ちゃんがゆっくりと覆いかぶさってくる。
冷ややかな床の感触に吐息をつくと、俺は腕を伸ばした。



まあ、とりあえず、愛し合っておきますか。




END



後日。
何かを思い立った蛮ちゃんが、上半身裸でベランダに出て思い切り日焼けをして、肌を真っ赤にしちゃったのはまた別の話。

「いってー!銀次、触るな!痛いっつーの!!」

む〜ぅ。



頭が悪すぎてどうしようかと!
しかもこの暑い中、大の男二人がくっついているのかと思うと、鬱陶しくてちゃぶ台をひっくり返したくなります。
全く信じてもらえないと思いますが、私は特にティクビに思いいれも愛着もありませんので…。
アホバカハッピーラブという、無駄に新しいジャンルを切り拓いてみました(笑)。


2004.8.19




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