【 † 宣戦布告 † 】
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どうせ、この世に生れ落ちた瞬間から、神に背いた存在なのだ。 今更反旗を翻したところで、積み重なる罪の意識など感じはしない。 はぁはぁはぁはぁ。 遠くの街灯の明かりが申し訳程度に届く中、銀次が蛮の耳元で荒い息を繰り返している。 「銀次、大丈夫か?」 かけられた声に、銀次は唾を飲み込んで息を整ると、ゆっくりと蛮に凭れていた身体を離した。 薄暗い闇で二人が見つめ合う。 「……蛮ちゃん」 「「奪還成功〜〜!!」」 ヤッホー!と叫びながら、二人は飛びついて抱き合った。そのままお互いの背中をバシバシと叩く。 「イテーよ、お前!」 「わっ。ごめん」 文句を言っても、「馬鹿力がっ」という蛮の声は笑いを含んでいた。 「これが100万に化けるぜ、銀次ぃ」 蛮がジャケットの内ポケットから一枚のMOを取り出してかざした。その銀板が少ない明かりをキラリと反射して光る。たった今ゲットしてきた奪還物だ。 電気うなぎなので触れることができない銀次も、眩しくそれを見つめて、それをかざす蛮の横顔に視線を移した。 「蛮ちゃん…」 そっと、呟く密やかな声。 「ん?」 「オレはコレ〜v」 うって変わった雰囲気で、じゃーん!とおどけて銀次が取り出したのは、小ぶりのワインボトルだった。 「…お前!でかした!!」 「えへへ」 蛮は、「もっと褒めてv」というように頭を突き出す銀次の首を脇に抱きこんで、まるで犬にするようにその髪を掻き回した。乱暴なスキンシップに、銀次が笑いながら抵抗すると、追いかけて今度は擽ってやる。舗装の悪いアスファルトの上で、二人はもつれ合いながらゴロゴロと転がった。 ひとしきり笑って奪還の喜びに浸った後、 「綺麗だね」 ふと、銀次が遠くのショッピングモールを彩るイルミネーションを眺めて言った。笑顔に心地よい疲労が滲んでいる。 時節柄いつもより過剰に飾り付けられたそれらは、間近で見れると煩いほどであったが、これくらいの距離をあけてみれば、なるほど、冬の澄んだ空気に煌びやかなネオンが散らばって美しい。 人工的に開発されたこの地区は、未だに空き地がそこかしこに残っており、隣の建造物まで思わぬ距離がある。 先ほどまで華やかなパーティ会場にガードマンに扮して忍び込んでいた二人だが、ほんの数キロ離れただけなのに、港近くに倉庫が立ち並ぶここは全く人気がなく、夜の帳に静かな波の音が響いているだけだった。 隣で銀次がぶるりと震える気配がした。 汗が引いて冷えたのだろうか。 ただでさえ、12月の夜気は冷たい。そのうえ、潮風が容赦なく体温を奪っていく。 蛮は銀次が失敬してきたワインの封を歯で噛み切った。 「呑めば温まるだろう」 言いながら器用に栓を抜いた瞬間、 「うわっ!」 勢い良く吹き出た中身が、銀次にかかった。 「悪ぃ!…ってコレ、スパークリングワインか?」 暗くてラベルの文字が読めない瓶の口からは、今も炭酸の白い泡が吹き出ている。 「……ふふ、美味しいよ」 頭からもろに酒を被ってしまった銀次は、頬を伝って垂れてきたそれを舐め取って笑った。 濡れた髪が張り付くのが鬱陶しいのか、背をしならせて両手で髪を掻きあげる。 その仕草に、蛮の胸が波立つ。 伸びやかな肢体。露になる形の良い額。そこに数本零れ落ちた、濡れてけぶる金の髪。 心持ち伏せられた睫が細かく震えている。 近頃、前触れもなく、何気ない仕草の中に銀次ははっとするような艶を出すようになった。 ガードマンに扮していたため、二人はシンプルな黒スーツを着ていたが、白いYシャツの襟はとうにくつろげられていた。その開いた襟の奥に見え隠れする、夜目に白い銀次の咽喉もとに、蛮は目を奪われる。 銀次の僅かに仰け反った顎。その先に滲んだ色気にたまらず腕を伸ばすと、気付いた銀次が蛮を見つめた。 銀次の視線を捕らえたまま、襟に手を潜らせて首に触れれば、夜気に冷えた手のひらに温かさがじんわりと沁みてくる。 蛮はそのまま顔を近づけて、露になった銀次のこめかみに唇を寄せた。 軽く吸えば、口内に広がる酒の香り。 「……美味いな」 吐息のかかる距離で、蛮が艶然と微笑んだ。 欲望に、蒼い眼が色を増して深くなる。 だが、突然のことに当惑しているのか、銀次はきょとんとして瞬きを繰り返すばかりだ。 その様子が驚くほど幼い。さきほどの艶やかさとは真逆の貌に、蛮は軽い眩暈を覚える。 まるで、黒から白へと。なんという落差だろう。 しかも、それに振り回されるのが、こんなに心地良いなんて。その快感を、銀次に触れて蛮は初めて知った。 銀次は蛮から眼を逸らさず、戸惑いがちに腕を伸ばすと、蛮の持つ瓶を掴み取った。 すると、次の瞬間、それが蛮の頭上で逆さにされた。 音を立てて降り注ぐ酒。 滴り落ちてくる冷たさに一瞬呆然としたものの、 「おい!」 「へへ。おかえし〜」 銀次のしてやったりという表情に毒気を抜かれて、蛮はゆるく苦笑した。 仕事の達成感も手伝ってか、興を削がれても、不思議と不快ではない。 ったく、しょーがねーな。 ところが、ひとりごちていると、今度はひょいっと顔を寄せた銀次が、蛮の頬に舌を這わせたのだ。 ざらりとした舌が、皮膚を舐って離れてゆく。 思わず言葉を失い、瞠目する蛮を見て、 「……蛮ちゃんも、美味しいよ」 薄茶の瞳を細めて、銀次が声を立てずに笑う。 意趣返しなだけではないことを察して、蛮はこ気味よさと同時に、再び眩暈を覚えた。 僅かな光を反射してその虹彩が金色に煌くのが、毛並みの良い猫じみていて。そして、その奥に火が燈っているのがはっきりとわかる。 鮮やかに移り変わる表情。 ――――この俺が、翻弄される。 銀次の目元から漂う、濃厚な誘惑の匂い。 被った酒よりも、甘く、遥かに芳しい。 自分を決して酔いから覚ますことはないであろう、それ。 誘われるまま無意識に腕を伸ばし、気付いた時には温かい身体を組み敷いていた。 銀次が、両手で蛮の頭を掴んで引き寄せる。蛮の濡れた髪に指を潜り込ませ、地肌を撫でるようにかき回す。 緩急をつけて揉むように擦られる感触に、蛮の背筋に快感が走る。 突き上げてくる情欲のまま、銀次の首筋に歯を立てた。 「っ」 生意気にも声を呑みこむ銀次を追い込もうと、申し訳手度に引っかかっていたネクタイを抜き捨てて、銀次の襟元を引き千切るように肌蹴させたが、白く浮かび上げる肌の色を間近に目にして、蛮はどうしようもない渇きを覚えた。 弾けた釦が跳ねる音を聞きながら、仰け反った銀次の鎖骨にむしゃぶりつく。 酒の匂いと、銀次の汗の味が舌の上で混ざり合う。 しかし、その若い匂いに、かえって飢えは増すばかりだ。 性急な蛮に恐れを感じたのか、銀次が身じろいて蛮の肩を押しやった。 強いけれども優しい力で突き放されて、蛮はやっと我に返った。 見下ろした銀次の瞳が揺れていることに気付くと、蛮は銀次の手を取り上げてそっと口付ける。 銀次を安心させるように、そして自分自身を落ち着かせるように。手のひらに、甲に、指に、唇を落とす。 羽毛のように軽く繰り返される口付けに、銀次はゆっくりと詰めていた息を吐き出した。 「蛮ちゃん…」 吐息で呼ばれて、蛮が目を上げる。 二つの視線が絡み合い、 「メリー・クリスマス」 幸せそうに微笑んで、銀次が言った――――。 きっと、コイツにとって、聖夜とは、それを口実にはしゃぐだけのものにすぎず。 俺の出自などには、到底考えが及ばないに違いない。 意味も知らずに神を祝う言葉を口にする。 腹立たしいが、その無邪気さが堪らないほど愛らしいとも思う。 囲いこんで舐めて可愛がりたいのと同時に、滅茶苦茶に引き裂いてしまいたい衝動に駆られながら、危うい均衡に揺れて、蛮は銀次に触れるのだ。 いずれにせよ、この腕の中に銀次がいさせすればいい。 今度は、銀次の唇に自分のそれを落としながら。 目を閉じた銀次には見えない、獰猛な笑みを口元に浮かべて、蛮は低く言い放つ。 「Merry Christmas」 陽気で能天気な降誕祭、おめでとう。 この言葉は、俺からの餞別だ。 いるとも知らぬ、神様とやら。 お前が、俺の行く手を阻み、腕の中の温もりを奪おうとするならば、容赦はしない。 この右手で、 お前など喰い殺してやる。 せいぜい馬鹿騒ぎをして、今のうちに祝われておけばいいさ。 |
場所はお台場、という設定。銀次たちが眺めているのは、ビーナスフォートあたりのイルミネーションです。
ところで、酒に濡れてMOはパーになってますね、コレだと。
当然奪還料もパー。
相変わらず金運のない二人です。
不謹慎な二人を書きたかったお話。
そしてちょっとだけですが、「悲劇的」とビミョウに対っぽいです(雷帝は出てきませんけれど)。
何だかんだ言っても、ラヴなクリスマス蛮銀でしたv
2003.12.24
あまりに突貫で書いて直しようがないので(少し言葉を変えて改訂)、誤魔化すために(?)おまけバカ会話→★
2003.12.30