【can't take my eyes off you】


今日もお仕事がありません。
ヒーマー。暇です。
ビラも配り終わってあとは連絡待ちですが、依頼は来ない気がします。少なくとも今日のうちには。そして、オレのこういう予感は当たるのです。
HONKY TONKにもツケをため過ぎて行きづらいので、駅前広場に蛮ちゃんと並んでしゃがみこみ、行き交う人たちを眺めながら暇を持て余しているところ。西日がまぶしいなぁ。
さっきから蛮ちゃんの視線の先には、やっぱりというか、女の人。いろんな女の人をチェックしては、「銀次ぃ。見ろよ、いい女!」「あの女はイマイチだ」なんて、好き勝って言っています。結構失礼だよね。
今蛮ちゃんが夢中になって見ている人はとても美人です。なんとなく、チチも大きそうな感じがする。女の人はちゃんと服を着ているから、チチの大きさなんてオレにはよくわからないけど、蛮ちゃんは恐ろしいほどの洞察力で見破ってしまいます。ちょっとアブナイと思うよ。
熱心に見ているなぁ……。
そんなに好きなタイプなのかな。確かに綺麗な人だけどさ。
……なんというか、凄く馬鹿なことを考えちゃうんだ。こんな時には。
なんとなく自分の胸を見おろしてみると、そこは平ら。当たり前だけどさ。てゆーか、あったら怖いし。
…………寄せればちょっとはできるかなぁ。
前に蛮ちゃんが夏実ちゃんたちに美しいチチの寄せ方を“れくちゃー”してたっけ。



………………試しにやってみましたが、やっぱり駄目でした。



「なぁーにやってんだ、おめぇは?」


げっ。見てたの?
女の人に夢中だと思っていたのに、変なとこで目ざといんだから。
オレは何となく気まずくなって視線をそらした。
「なに?遂におめぇもチチに目覚めたか?」
『全国チチ学会へようこそ!』なんて横断幕を背負っていらしゃ〜い、みたいなポーズをとる蛮ちゃん。蛮ちゃんて、時々オレよりバカだと思う。だいたい、その横断幕どこから出したの?
「別に、なんでもないよ」
「何でもないって顔じゃないぜ?」
長い指で箱を弾いて煙草を一本取り出しすと、口の端に銜える。ゆったりとした動作でそれに火をつけながら、蛮ちゃんは言った。
その一連の動きにオレが目を奪われてしょうがないなんてこと、この人は知らないんだろうなぁ。
そう思うと、唐突に悔しさがこみ上げてきた。
オレのこと全然知らないくせに、オレの知らないオレ自身を知っている人。でも、今オレがどんな気持ちなのか、なんでオレが悔しがっているのかなんて、全然関係ない人。
手を伸ばせばすぐに触れることのできる距離にいるのに、何でこの人は気付かないんだろう。何で伝わらないんだろう。
わかって欲しいのに、わかって欲しくないという、背中合わせの気持ちが胸を焦がす。
そして、このもどかしい気持ちを少しでも味あわせてやりたいという、怨みにも似た想い。
蛮ちゃんが少しでもこんな気持ちを感じてくれたら、オレはもっと蛮ちゃんの近くにいけるのかな。

何も言わないオレに諦めたのか、蛮ちゃんがため息をつきながら立ち上った。
「そろそろ戻るか」
「ねぇ、蛮ちゃん」
「あ?」
「もし、オレにおっぱいがあったらどうする?」
「アホか、おめぇ。バカ言ってんじゃねーよ」
「ねぇ、どうする?」
「そうさなぁ。取り合えず揉んどくか」
がっくり。
だよねー。蛮ちゃんだもんね。揉むよね。
わかっているんだ。チチの問題じゃないってことくらい。
「ほら、戻るぞ」
オレは膝を抱えたまま、蛮ちゃんをじっと見上げた。なかなか立ち上がらないオレに、蛮ちゃんがだんだんと焦れてくるのがわかる。そんな時の蛮ちゃんは眉毛がピクピクするから。
「早く立て。ボケ」
「蛮ちゃん」




「エッチしようか」




蛮ちゃんの目が大きく見開かれて、銜えていた煙草がポロリと落ちた。