【甘いのがお好き?】


「?!」
銀次はそのでっけー目ン玉をもっとでっかくした。
何度か瞬きをして目をこする。さらに深呼吸を繰り返してやっと落ち着くと、重大な秘密を尋ねるようにそっと口を開いた。
「……どうしたの?蛮ちゃん」
俺様の目の前にうやうやしくも置かれたソレと俺様とを交互に見比べ、うっかりツチノコでも見ちまったというような顔をしている。
「あ゛?」
「だって、蛮ちゃん。それ……」
「なんだよ、俺が食っちゃまずいのかよ」
「そんなことないけど」
ないけど…と言いつつ、上目遣いに俺をうかがう。くっそー、可愛いじゃねーか。何でこいつはこういう顔が恐ろしく似合うんだ、チクショウ。思わずその頭を抱き寄せてグリグリしてしまいたい衝動を抑えて(耐えろ!耐えるんだ俺!!ここは真昼間のファミレスだ)、俺はワザと不機嫌にフンッと鼻を鳴らすと(照れ隠しだ)、スプーンを握った。
実をいうと俺だって、戸惑っている。
俺の目の前に置かれているのは、いわゆるフルーツパフェだ。
こんなオンナコドモが食うような甘いものは、普段口にしない。食えるかっ、こんなただ甘ぇだけの菓子なんざ。しかもただの菓子じゃねぇ、パフェだ。パフェ。だいたいなんだ?この気の抜けるような語感はよ!
「食べないの?」
スプーンを握ったまま親の敵のようにパフェを睨んでいる(パフェと言う語感がどうしても許せねぇ!)俺を、銀次が怯えながらもいぶかしむ。
「食うよ!食やーいいんだろう?」
「いったーい!何で殴るの?蛮ちゃんが頼んだんじゃん!!」
そう。俺が頼んだのだ。目の前に置かれた忌わしき菓子を。
実は先に頼んだ銀次が、あまりにも旨そうに食うんで、ヤツが便所に行っている間につい出来心で頼んじまった。たまたま通りかかったウェイトレスのねーちゃんのチチがでかかったってーのもあるが、そんな旨いものなのかと、生来好奇心旺盛な俺様は日頃の探究心が遺憾なくに発揮されてしまったワケだ。が、しかし、実際に実物を目の前にして遺憾ありありだ。とほほ。
銀次が見守る中(そんな見つめんなよばぁか・愛)、俺は中央にうずたかく盛られた生クリームへスプーンを差し入れ、掬ったそれを舐めてみる。
「…………っ」
あっめぇえ〜〜〜。
辛い。この捉えどころのない甘さと食感が、かなり辛い。そうか、この空気を食むような捉えどころのなさがパフェという気の抜けたような語感に表れているんだな。なるほど。……俺は今ちょっとオカシクなっているという自覚がある。
「大丈夫?蛮ちゃん?」
「甘いんだよ、コラァッ!!」
「ごめんなさい!!……って、何でオレが謝んのぉ?」
俺の八つ当たりに条件反射で謝った銀次が、我に返って頬を膨らませるのをしり目に、急いで横に添えてあったリンゴを口に放り込んだ。ああ、生き返る……。
「食うか?」
「え?」
「やっぱ俺には無理だわ。お前食うだろ?」
「うん!!」
……すっげー満面の笑みだな。まぁ、食うことはこいつの一番の楽しみだし。ほれ、と俺はサクランボを銀次の前に突き出した。
「…………」
「…………どうしたんだよ、食わねーの?」
「た、食べます!」
そして、ヤツはどうしたと思う?
銀次は、俺が突き出したサクランボをそのまま食べやがった。俺の手から、そのまま!恥かしいのか(そりゃ恥かしいだろうよ)、頬をちょっと赤く染めて!


正直、驚いた……。


人間ってーのは予想外のものに突然出くわすと、驚きで声も出ないし表情は限りなく無表情になるもんだ。今の俺様がまさにそれだ。
誓って言うが、俺がそれを狙っていたわけじゃねぇ。何気なく、目に付いたサクランボを突き出しただけだ。自分で頼んでおいて結局食べられないという情けなさを誤魔化したくて、ぶっきらぼうに突き出しただけだった。まさか、俺の手からそのまま食べるなんて思わないだろう、普通?…………いや、銀次に普通も何もなかったんだけどよう。自分の手で受け取って食べるという発想がないのか、それとも俺がそのまま食えといっていると思ったのか。あいつが食うまでの間を考えると、後者だな。
しかし、驚いたのもつかの間、コレはイイ!と思ったね(キュピーン)。赤いサクランボには白い生クリームが少し付いていたわけだが、それが俺の指から銀次の舌に乗るのは、なちゅーか、すっげーエロかった。何だかわからんが、視覚的にエロい!楽しいアソビを見つけちまったぜ!ぶほほほほー!
「ねぇ、蛮ちゃん。貰っていいんでしょ?」
物思い(その内容はアヤシイこと限りない)に耽っていた俺に焦れたのか、銀次が強請った。飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ(?)。
「おう!」
どんどんくれてやるぜと言わんばかりに俺が答える。
「わーい!ありがとう、蛮ちゃんv」
すると銀次は、にょきっと腕を伸ばし、パフェの盛られたグラスの脚をがっつり掴むと自分の前に引き寄せ、呆気に取られる俺を尻目に物っ凄い勢いで食べ始めた。
「……おい。銀次」
「おいしい〜〜vv」
銀次は、顔を上げてどこかのアイドルグループ番組の司会者のごとく叫ぶと、再びパフェに没頭する。
ちっくしょう…。
考えていたことが(かなり)疚しいだけに、怒れねぇし、八つ当たりもできねぇ。
俺が悲嘆にくれたのは言うまでもない。

ああ、がっくり。




本日の教訓 : 銀次の食欲は見くびれない



END



ちょっと馬鹿っぽい話が書きたかったのですが、最高に頭悪いです。
日常生活では、蛮ちゃんの意図を銀ちゃんが読み違え、銀ちゃんの意図も蛮ちゃんは読み違える、というのが面白いかなぁ、と思っただけ。
そして、蛮ちゃん視点は意外と楽しいことに気付きました。でもこの蛮ちゃん、べらんめえ調ですな。江戸っ子?


2003.9.24




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