【降誕祭】


なりつづける呼び鈴にゆっくりと意識が呼び戻される。赤屍はソファに寝転がったまましばらく呼び鈴を聞いていたが、ようやく立ち上がった。あまりはっきりしない意識をもてあましながらドアに向かおうとして床に置いたままだったグラスを派手に蹴散らかす。こぼれた水の上をため息混じりにぺたぺたと歩きながら、先ほどからなりつづけている呼び鈴に向かって声をかけた。
「はい、起きましたから。開けますからもう鳴らさない」
その声にぴたりと呼び鈴が止まるのに赤屍は苦笑した。
まったくずうずうしいというか。
銀次のこんなところには本当にあきれる。純粋といえば聞こえがいいが、彼は赤屍に対しては少々強引過ぎるきらいがあるのだ。今もきっと嬉しさにそわそわと落ち着かなくドアの外で足踏みでもしているのだろう。赤屍がドアチェーンをはずした途端、勢いよくドアが引かれて、ノブを持っていた赤屍は思わずつんのめりそうになった。
「メリークリスマ…っうわわ!!ぎゃ!」
ドアの向こうから飛び込んできた銀次と思い切り頭をぶつけて、彼が悲鳴をあげる。赤屍はいたむ額を抑えながらやれやれとため息をついた。しゃがみこんでぶつけた頭を声もなく抑えている彼に一言小言を言ってやらねばと思いながら、赤屍は彼の姿に固まった。
銀次はサンタクロースの格好をしていたのだ。それも、どこかのパーティグッズ売り場で手に入れただろうそれは思い切りよく足を出しているショートパンツタイプ。ずり落ちそうになっている帽子にサイズの合わない袖も裾も全てが短めの上着。まるで子供のようなその格好に赤屍の心拍数が跳ね上がった。
「銀次クン…?!」
「メリークリスマス!!」
うろたえる赤屍を一瞬見上げた銀次が先制攻撃を仕掛けた。思い切り抱きつかれて赤屍がよろけないようにと銀次を抱きしめると、そのままいたずらっぽい瞳が赤屍の顔を覗き込む。寒さに微かに赤くなった頬を摺り寄せながら、銀次はしっかりと赤屍の首に腕をまわした。
「メリークリスマス!お帰り!あかばねっ!」


照れ隠しに仏頂面でリビングへと引きずり込んでも、銀次は心得たもので気にもしないで部屋の中を走り回っている。
「クリスマスの朝はプレゼント開けるんだって!開けよう!あ、窓あいてるじゃん!エアコンつけようよー!さむいよー!あ、赤屍さん、なんかこぼれてるよ!」
ばたばたと騒いでいる彼をほっておいて、赤屍はキッチンで銀次のためにミルクを温めていた。
なんなんでしょう。あの格好は。ほんとうにお祭り騒ぎだと思ってるんですね…。
照れ隠しなのかあきれてなのかよくわからないため息を零しながらちらりとリビングと見ると、ティッシュで床にこぼれた水を拭いている銀次の姿が目に入る。赤屍はショートパンツで四つんばいというこれもまた殺人的な挑発ポーズで一生懸命床を拭いている彼の姿を鑑賞していたが、ひとつため息をついてから足早にリビングへと向かった。床を拭いている銀次を後ろから抱き上げると、ソファへと座らせる。それから説教でもするように顔をしかめて銀次の前で腕を組んだ。
「銀次くん、あのね、君は何故こんな格好を…」
「昨日、HONKYTONKでクリスマスパーティで、これ、夏実ちゃんが着てて、卑弥呼ちゃんが今日ぐらい赤屍が帰ってくるかもっていったし、部屋、電気ついてたから、俺驚かそうと思って借りたの。で、びっくりしたでしょー?」
文脈がつながっているようないないような言葉だが、なんとなく意味はわかる。最後まで喋らせてももらえない赤屍はがっくりと肩を落とした。どうやら銀次は興奮している。3週間も連絡なしでこの時期にほうって置かれたのだから、こうやって会えたことがよほど嬉しいらしい。まあ当然だ。赤屍だって久しぶりに銀次の顔を見れて嬉しい。
しかし。
この格好はダメだ。絶対ダメだ。
赤屍は今も目のやり場に困りながら、苛々と髪をいじっていたが、いきなり銀次に背を向けるとキッチンへと戻っていってしまった。
リビングで不思議そうに自分を呼ぶ銀次の声を聞きながらレンジからミルクを取り出す。それをテーブルの上に置きながら、赤屍は大きく深呼吸をした。
自分がコスプレした銀次が好きだとか、そういうプレイが好きだとか感じたことは一度もない。というかなかったというべきか。
サンタな銀次は異常に可愛かった。
今すぐにでも押し倒して頂いてしまいたいくらい可愛い。しかし、それもいかがなものかという思いが赤屍の中にはある。
久しぶりに会ったのだ。ゆっくり話もしたいし、一緒に食事もしてもいいかとも思うし、ほうっておいた分銀次を甘やかしたいし、もしかしたらゆっくりプレゼントを選びに買い物に出かけてもいいし。
赤屍の中で通俗的なクリスマスの認識を駆使して考える行動はここまでであって、決してコスプレした銀次をその場で押し倒してしまうことではなかった。
そもそも、久しぶりなので歯止めが利かなくなる可能性もある。
ここまで喜んでいる銀次にうっかりやりたい放題やらかしてしまって嫌われるのは痛い。というか嫌われるのが一番痛い。でもこのおいしい状況を楽しまないのももったいない。しかし、やりだしたら止まらないような気もする……。
やりたいようなやりたくないような実に複雑な気分のまま赤屍はもう一度深いため息をついた。欲望任せの赤屍にしてみれば実に珍しい事態のように見えるが、飢えた狼が羊を丸呑みにして顰蹙を買うか、わきまえて頂く事で点数を稼ぐかを迷っているだけだった。
「ね、あかばねぇ。どしたの?俺なんかした?」
銀次がキッチンの入り口で赤屍の様子を伺っている。またなにかしてしまったのだろうかとしょんぼりと尻尾を下げた子犬のような銀次の姿に赤屍は一瞬の沈黙のあとそれはもうにこやかに微笑んだ。
「いいえ。なんにもしてませんよ。はい、銀次クン、ミルクが温まりましたよ。あ!」
「あ!」
赤屍がミルクを差し出したと同時に、コップが手から離れて銀次があたまからミルクをかぶった。
「ああ、すみません。手が滑りました」
「…ちょっとこの服借り物なんだよ!ぬれちゃったじゃないか!」
「まあまあ、洗えば大丈夫ですよ」
銀次が慌ててそばにあったタオルで上着を拭いていると、ぬっと赤屍の手が胸元に伸びる。え?と顔を上げると満面の笑みで赤屍が銀次を見下ろしていた。
「脱がせてあげますねv」

狼は羊を丸呑みすることに決めたらしかった。




ベットの中で銀次は怒っていた。赤屍に背を向けたままひとつ咳をすると、赤屍の手が優しく背中を撫でた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ!」
勢いよく赤屍の手をはたくともう一度背をむける。案の定恋人の機嫌を損ねてしまった。銀次の滑らかな背中を見ながら赤屍は思わず苦笑してしまう。
久しぶりに肌を合わせて、お互いに酔って。
きっかけは自分かもしれないが、望んで派手な声をあげたのは銀次なのに、どんなときでも彼は絶対に認めようとはしない。そんな彼がとても愛しいから別にそれをとやかく言う気はないけれど、こうまで機嫌を損ねられると少し不公平な気もしてくるというものだ。
赤屍は口元に微笑を浮かべながら背を向けたままの銀次の金髪に指を絡ませた。柔らかい癖毛は赤屍のお気に入りのひとつで、こうされることは銀次はとても好きだから今もそれを無理に払うことはなくてされるままになっている。しばらくそうしていると銀次が小さく寝息を立てはじめた。赤屍は銀次を起こさないようにそっと引き寄せると胸の中に収まるように抱きしめる。それから、彼のぬくもりを胸に感じながら目を閉じた。
こんなすごし方をする自分がいることも考えつかなかった。
今まで知らなかったクリスマスだ。銀次がくれるものはいつも真新しい。
 
これからも、ずっと真新しいクリスマスをこの子とすごせたらいいのに。
 
胸の中のぬくもりに腕を絡めながら赤屍は大きく息をついて目を閉じる。
目がさめたらプレゼントを買いに行こうと思った。
目がさめたら今度は、銀次が知らないクリスマスのすごし方を教えるのだ。



JUN様のHPで配布されていた降誕祭シリーズ・赤屍銀次編を、がっつりただいてきました。なんというラブな屍銀!屍銀とは、かくあるべき哉。
銀次が仔犬のようで、可愛くて仕方がありません。
「あかばね!」と呼んでいるのもツボです。ビバvひらがな!
そして前半の、人間味のあるメロウな赤屍さんに胸キュン。

屍銀スキーさんは、ぜひJUNさんのサイトで他のお話&イラストを拝見すべし。
(リンクから貼ってあります)


2004.1.10
銀乃 雪


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