【降誕祭】


冬の遅い朝がゆっくりとやってきている。仕事が終わって部屋へと向かう道、凍るアスファルトを踏みながら歩くうちに静まり返った街がいつもと様子を変えている気がして赤屍はふと顔を上げた。祭りのあとのようなゴミが舞う道の先には大きなショッピングセンターがある。赤屍はそこを通り抜けるために歩を進めながら、ショーウインドウに目をやった。きれいにラッピングされたギフトボックスのデコレーションにふと首をかしげる。それから道沿いの電飾がまとわりついた木々を見回し、と冷え切ったショッピングセンターの前に立つひときわ大きなもみの木を見上げ、ようやく赤屍は今日が降誕祭だということに気づいた。
 
 
誰もいない部屋の中で、赤屍は息を白くしながら突然部屋の真中に生えた大きなもみの木を見ていた。金や銀のモールや可愛らしい人形に飾りつけられたツリーとその下に散らばる大小のプレゼントらしき包みと箱たち。赤屍の部屋を勝手にこんな風に飾りつけができるのはただ一人、この部屋のかぎを渡してある愛しい人だけなのだが、肝心の彼の姿はどこにも見えなかった。
まったく。何を考えているのかさっぱりわからない。
赤屍はツリーにぶら下がる小さなサンタの人形を指で弾いてから、小さくため息をついた。コートと帽子をクローゼットへとかけるとキッチンへと向かう。自分のために氷の浮いたグラスにバーボンを勢いよく注ぎながら、キッチンからツリーを眺めた。
今回の仕事は長引いた。12月の初めからもう3週間近くずっと部屋を空けていた。いつ来てもいない自分に毒づきながらも一人ツリーを飾り付けていただろう彼の姿は簡単に想像がつく。楽しいはずのこの時間に仕事で帰らない恋人にひどく怒っていたに違いない。
赤屍は冷たい空気を部屋へと入れるためにリビングの窓を開けてから、ソファへと腰をおろした。目の前にある部屋には不釣合いなほど大きなツリーを見上げる。
クリスマスは今日なのだが、記念日めいた遊びが好きな彼にとって大切だったクリスマスイブはもう過ぎてしまった。帰ってこない恋人のことはあきらめてHONKYTONKでパーティでもしたのだろうなと思いながら、赤屍はバーボンで唇を湿らせる。
降誕祭。
怠惰な神の降臨を喜ぶ日。
こんな豪華なツリーを間近でみたのは何年ぶりなのだろう。自分が最後に見たツリーは戦場の中、焼け残った小さなもみの木に手作りで掘った木の人形をひとつだけつけたものだった。ナイフで掘った小さなジンジャーマンを嬉しそうに受け取り、彼は一生懸命小さな枝に飾った。たったそれだけの小さなツリーを嬉しそうにみていた少年は春を待たずに逝ってしまった。
雨のように降る弾丸の中でどれだけ助けを求めても応えようとしない。神という名の傲慢な輩は救うことよりも奪うことが得意なようだ。
信じる者達に手を差し伸べない、そんな光景はもう見飽きてしまった。
怠惰で傲慢な輩の誕生など祝う気にはなれない。
今も…祝う気になどなれない。
赤屍は残り少なくなったバーボンを一気にあおると、大きく息をついた。
彼、銀次にとってはクリスマスは楽しい冬のお祭りだ。きっとこの日本でのバカ騒ぎの由来も知らないに違いない。今までこんなにクリスマスをはしゃぐこともなかった彼のことだからこのイベントをひどく楽しみにしていただろう。
だが、今彼がこの祭りを楽しむためにここへやって来たら自分はそれに応えることができるかどうか自信がない。
赤屍はかすかに眉をひそめたまま軽く頭を振った。いつも彼の望まぬことしかできない自分がこんなときにまで愛しい彼の顔を曇らせることはしたくはない。空になったグラスの中の氷を揺らすと、そのままソファに横になりゆっくりと目を閉じる。
疲れているだけだと頭の中で繰りかえす。
疲れているだけだから、きっと少しでも眠れば彼に笑っていうことができる。彼の笑顔を見れば言う事ができるはずだ。
メリークリスマスと。



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